ベルヴェデーレ宮殿
ウィーンのバロックのランドマーク
ウィーンの英雄オイゲン公が夏を過ごしたベルヴェデーレ宮殿は、バロック建築の巨匠ヒルデブラントの設計で18世紀に建てられたバロック様式の宮殿です。ベルヴェデーレとは、“美しい景色”という意味。上宮と下宮の2つの宮殿を、まるでアートのような庭園がつないでいます。なだらかな丘の上に建つ上宮からは、下宮へと続く広大な庭園とウィーンの街並みを一望してください。まるで映画のワンシーンに入り込んだような景色は、息を呑む美しさです。
サヴォイのオイゲン公は、17世紀後半のレオポルト1世の時から3代にわたってハプスブルク家の皇帝に仕えた名将です。 1683年当時ウィーンがオスマン帝国軍に包囲されるとこれを撃退し、バルカン半島まで追撃してベオグラードを陥落しました。この時、オイゲン公が率いるオーストリア軍は莫大な犠牲を払いながらもオスマン帝国軍を倒してハンガリーを奪還することに成功しました。1700年に始まったスペイン王位継承戦争でも各地で勝利を収めるなど、オーストリアが大国への道を進む上で、軍事の天才オイゲン公による功績が大きく、今もオーストリア国民に愛される英雄の一人です。
オイゲン公は、夏の離宮であるベルヴェデーレ宮殿上宮を10 年の歳月をかけ、1723 年に完成させました。オイゲン公が1736年に72歳で亡くなった後、ベルヴェデーレをはじめとする彼の宮殿はハプスブルク家に管理されることになりました。その後、ベルヴェデーレ宮殿は宮廷の祭典の場として多くの役割を果たしました。 第二次世界大戦後、アメリカ・イギリス・フランス・ソ連の4カ国によって10年にわたり分割占領統治を受けていたオーストリアが1955年5月15日、ついに独立を回復するための「オーストリア国家条約」が調印されたのもベルヴェデーレでした。現在はオーストリアギャラリーが入り、魅力あるバロック建築として時代を超えて名声を博しています。
ベルヴェデーレ上宮には、中世から現代にいたる、最大のオーストリアの芸術作品コレクションや、国際的な画家、例えば、クロード・モネ、フィンセント・ファン・ゴッホ、マックス・ベックマンらの傑作が所蔵されています。ベルヴェデーレの所蔵品コレクションのハイライトであるウィーン1880~1914には、有名なアールヌーボーの黄金期を代表する作品「接吻」と「ユディト」を始め、世界最大のグスタフ・クリムトの絵画コレクションと、エゴン・シーレとオスカー・ココシュカの作品が含まれています。フランス印象派の代表作と、最大のウィーン・ビーダーマイヤー時代の芸術コレクションもまた、ベルヴェデーレ上宮に展示されている魅力溢れる所蔵品のハイライトです。
おススメ:ベルヴェデーレ上宮のシュロスカフェでは、美術館で一休みしたいとき、また庭園を散歩した後でも、歴史的な雰囲気の中でオーストリア料理とともにウィーンのカフェ文化を楽しむことができます。また、ミュージアムショップには『接吻』をテーマにしたスマホケースなどの様々なお土産となるグッズが見つかります。
ベルヴェデーレが保有する世界最大のクリムトコレクションのうち、オーストリア美術史上最高傑作として知られる『キス』は文外不出となっており、この場所でしか見ることのできない作品です。絢爛たる金がまばゆい光を放つ『接吻』。男女の愛の形を象徴的に表現した傑作といわれています。しかし、よく見ると2人の足元に広がる花畑は、女性の足元で終わり、その下は崖になっています。これは、「愛に忍び寄る死の影」「男性の心が女性を離れようとしている」などと解釈されることが多く、また「キスを交わし愛を確かめあった2人は、このあと聖域なる別世界に旅立つ」という見方も……。“生”と“死”をテーマにした作品も手がけたクリムトの絵画は、自由な発想で眺めることができるのも魅力です。
また、『ユディット』をはじめとする女性の肖像画も多数展示されています。 クリムトの全絵画作品の1/4を占める風景画の多くがアッターゼー湖で夏を過ごした時期に描かれました。湖と岸辺の細部描写など、シンプルなモチーフを取り上げた、クリムト独特の技法を用いた風景画を鑑賞できます。
ベルヴェデーレ下宮はオイゲン公の居城として使われました。ここにも大理石の間、黄金の間などに、オイゲン公の贅沢な嗜好が窺われます。現在は最上級の特別展の会場です。ベルヴェデーレ下宮は2022年に改修工事の後、エントランスエリアが新しくなり、わかりやすい見学コース、アクセスのしやすさなどでゲストに魅力的な美術館体験を提供しています。庭園を散歩した後はベルヴェデーレ下宮の特別展をぜひ訪れてください!
おススメ:1階のモダンなパークカフェでは、ゆっくりとティータイムを過ごすことができます。
ベルヴェデーレの庭園は、ヨーロッパで最も重要な歴史的なフランス式庭園の一つです。今日のように縮小された庭園となってもなお、優れた後期バロック式庭園デザインの好例として非常に高く評価されています。ベルヴェデーレ上宮の野外階段の前には、建物のファサードをくっきりと映す大きな鏡の池が配置されています。庭園の反対側で、レンヴェーク通りに最も近い所に「名誉の庭」があり、ベルヴェデーレ下宮と隣接しています。カンマーガルテンがベルヴェデーレ下宮の右側につながり、北の端のオランジェリーへと続いています。この細長い西側の地所は、オイゲン公とその側近のみが利用することができました。ベルヴェデーレ上宮に隣接する敷地は、1726年まで半円形の城壁を取り囲むように東方へ延びていました。南側には、現在はウィーン植物園ですが、当時は幾何学的な家庭菜園がありました。
ファンタスティック・パラスティックス
ファンタスティック・パラスティックス(Fantastic Palastics) は、オイゲン公が庭に作った動物園にヒントを得たゲームです。実際に庭で飼われていたライオン、キツネザル、ガゼル、羊、ダチョウ、ヤマアラシが登場します。ゲームを始めるには、上宮前のスフィンクスに行き、スマートフォンでQRコードを読み込むか、下のリンクをタップしてください。隠れていた動物たちが300年前のベルヴェデーレ宮殿に案内してくれます。(ゲームの利用は無料。入場自由の庭園でのみ展開するので、宮殿の入場券を購入する必要はありません。対象年齢:8歳以上)
ベルヴェデーレ下宮に隣接するレストラン「サルム・ブロイ(Salm Bräu)」は、旧修道院を改装したビール醸造所で製造する自家製ビールで、もともと有名でした。また、プリンツ・オイゲン・シュトラーセ通り沿いにある「シュテックル・イム・パーク Stöckl im Park)」では陽光の暖かい日、屋外ベンチでウィーンのおつまみと味わうハウスビールの味はまさに絶品です。 また、宮殿に隣接するシュヴァルツェンベルク庭園には屋外劇場「テアター・イム・パーク(Theater im Park)」が5月から10月までオープンし、最高の音楽や様々な舞台芸術が繰り広げられ、ウィーン夏の風物詩になっています。
ベルヴェデーレ宮殿上宮前の広場は、毎年11月中旬から12月31日まで美しく、エキサイティングなクリスマスマーケットの場に変身します。ツリーを飾るオーナメントやアツアツのグルメが味わえる屋台が庭園に登場します。池に浮かぶ星型照明とライトアップされた宮殿も幻想的で、より一層優雅で華やかな姿を見せてくれます。クリスマス時期ウィーンで欠かせない見どころの一つです。