景勝地、ザルツカンマーグート
芸術家に避暑地として愛された湖水地帯
ザルツブルク市の東、アルプスの峰々に抱かれるように、扇状に展開する一帯が、オーストリアの景勝地を代表するザルツカンマーグートです。湖が大小合わせて76も点在するオーストリアで最も美しい湖水地帯と言われます。世界遺産のハルシュタットやダッハシュタイン山塊もこの地域にあります。
バード・イッシュル Bad Ischl
ザルツカンマーグート地方では最大の町で、温泉保養地として有名です。フランツ・ヨーゼフ皇帝の別荘(カイザーヴィラ)やオペレッタの名作を遺したレハー ルの記念館、皇帝のために菓子づくりをした店「ツァウナー」、夏のオペレッタ・フェスティバルが名高いスポットです。
サンクト・ヴォルフガング St. Wolfgangsee
バート・イシュルから車で20分、オペレッタ「白馬亭」で知られるヴォルフガング湖畔 の景勝地。メルヘンのような民家が並ぶ町の中心に立つ15世紀に建てられた巡礼教会が有名です。ミヒャエル・パッハーが1481年に制作したゴシックの中 央祭壇は、オーストリアで最も重要な文化財のひとつで、両翼に16枚の板絵を配し、マリア戴冠、十字架のキリスト、祝福を与える神へと上昇する木彫りの シーンは、後期ゴシック芸術の最高傑作に数えられています。
教会裏手や湖畔のプロムナードから眺める湖水も美しく、とりわけアプト式山岳鉄道でシャーフベルク (1783m )へ登れば、11の湖水、ダッハシュタイン、ホーエ・タウエルンなどアルプスの大パノラマが広がります。
ゴーザウゼー湖 Gosausee
ハルシュタットから西南に17km、ゴーザウ湖は前ゴーザウと後ゴーザウに分かれており、この地方では最も標高の高い湖です。ダッハシュタイン連山とゴー ザウカム(2455m)に囲まれ、静かな湖水面に氷河を抱くダッハシュタインを映す風景はポスターやカレンダーによく登場すします。
フッシュルぜー湖 Fuschlsee
ザルツブルクから東へ約20km、山間の道路を走ると突如眼下に、木立に囲まれたフッシュル湖が現れます。面積約3平方キロ。湖畔には15世紀の古城(現在はホテル)が立ち、景勝地ザルツカンマーグートの玄関にふさわしい美しい風景が広がります。
モントぜー湖 Mondsee
ザルツブルクから東へ約17キロ、この地方では最も水温の高いモント湖(14平方キロ)。近くには「サウンド・オブ・ミュージック」の結婚式の舞台となった古い教会があります。9月には室内楽を中心とした音楽祭「Musiktage Mondsee」が開催されます。
アッターぜー湖 Attersee
オーストリア・アルプスでは最大の湖(約47平方キロ)で、南北に長くのびています。キャンプ場、ウォータースポーツ施設、湖上遊覧船、ホテル・レストラ ンが数多くあります。 交通の便が良く、国鉄西部本線(ウィーン〜ザルツブルク)のフォクラブルックまたはフォクラマルクトでローカル線に乗りかえます。またアウトバーンも近く を通っています。
トラウンぜー湖 Traunsee
アッター湖に次ぐ第二の湖で、北端の町グムンデンは陶器の産地として知られています。昔から詩人や芸術家がよく訪れた町でもあり、ブラームスは1890年 から6年間、シューベルトは1825年から2年間この町で暮らしました。湖の東側にあるトランウンシュタイン(1691m)の山頂へはロープウェイで登れ ます。グムンデン陶器工場見学も可能です。
サンクト・ギルゲン St. Gilgen
水浴地、保養地として人気の高い湖畔の町で、愛らしい伝統の民家が並び、ロープウエーで登るツヴェルファーホルン(1522 m )からも、湖水地方とアルプスのパノラマを楽しむことができます。現在地方裁判所となっている建物では1720年にモーツァルトの母が生まれました。知名 度の高さからやや大衆化したサンクト・ヴォルフガングに比べ、サンクト・ギルゲンには優雅な静けさが残されています。
ハルシュタット湖Hallstättersee ユネスコ世界遺産
水切り立った山に囲まれたハルシュタット湖。西岸にある、人口2000人足らずの町ハルシュタットは、この近くで岩塩が採れたため先史時代(紀元前9〜2世紀)から重要な商業の中心地でした。塩は湖を渡り、トラウン川とドナウ川を通って遠くの地まで運ばれました。東岸にはオーバートラウン、湖のすぐ近くにはバート・ゴイゼルンの町があります。
ダッハシュタイン山脈 Dachstein ユネスコ世界遺産
ハルシュタットから湖に沿って東へ約6km、オーバートラウンの村はずれに、ザルツカンマーグートで最も高い展望台を持つクリッペンシュタイン (2100m)へ登るロープウェイ乗り場があります。この山から、南面に広がるダッハシュタイン(2995m)を中心とする連山のすばらしい景色が眺めら れます。
ロープウェイの第1中継駅近くには氷穴があり、ガイドツアー(所要時間約1時間)で自然の芸術を鑑賞できます。なおダッハシュタインの氷河は、ヨーロッパアルプスの最東端の氷河で、夏スキーの舞台として知られています。
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ザルツカンマーグート地域のハイキング: 4つの山と3つの湖 - ザルツカンマーグートを歩く喜び
オーストリアの中でも、もっとも人気の高いハイキング地域の一つであるザルツカンマーグートの自然を旅行鞄なしで、いろいろな発見に出会いながら歩く喜びを感じてください。
ハイキングを目的地とした人々にとってザルツカンマーグートは、言葉の心配がなく、ハイキングの他にもアクティビティの選択肢が多数ある、オーストリアで最も魅力的なデスティネーションです。
ザルツカンマーグート地域のハイキングでは、壮観なハイキング・コースを通り、素晴らしい田園地帯を抜けて、渓谷の下できらめく紺碧の湖の刻々と変化する風景を愛でながら歩きます。ハイキング・パッケージツアー「ザルツカンマーグート長距離ハイキング」は、フッシュル湖やヴォルフガングゼー湖、モントゼー湖の美しい湖水地帯を見下ろす、ショーバー山、サンクト・ギルゲンの町の上にそびえるツヴェルファーホルン山や、特徴的な姿をしたシャーフベルク山、フラウエンコプフ山へ登るルートです。このコースのハイライトの一つが、「アッターガウの守護神」と呼ばれているシャーフベルク山の山頂です。ここからは、ザルツカンマーグート地域に点在する、13以上もの湖を見下ろすことができる、ダイナミックなパノラマビューが楽しめます。このハイキング・パッケージツアーには、シャーフベルクシュピッツ・ホテルでの一泊が含まれていますので、朝食を食べながらやわらかな朝の光の中で、この壮大で素晴らしい眺めが堪能できます。素晴らしい事は、それだけではありません。このパッケージには、ホテルでの宿泊や荷物の移動の他にも、ヴォルフガングゼー湖での乗船券、または、シャーフベルク山へ登る、オーストリアで最も急峻なアプト式SL鉄道路線の往復切符が含まれていますので、気が向かなければすべての行程を自分の足で歩く必要はありません。このツアーでは、1日5時間以上は決して歩かないように計画されていて、ザルツカンマーグート地域の3つの湖で、のんびり過ごす時間は十分にあります。
ハルシュタット湖の湖畔に家々が並び立つ景観は、世界でも最も美しい湖畔の町の一つとして知られています。一帯は「ハルシュタットとダッハシュタインの文化的景観」として、1997年にユネスコ世界遺産に登録されました。土地が狭いので山の斜面に家々が立ち並ぶ。教会のある古い街並みは湖と調和し、典型的なオーストリアの風景としてよくカレンダーにも使用されています
かつて「白い金」と言われた塩がザルツカンマーグートを豊かな地域にしました。古の塩の道を通り、歴史上の人物たちの足跡を辿ることができます。ハルシュタットの塩鉱を訪れると7000年の文化史が感じられます。
オーストリアで最も心躍る地域の一つと言われる土地を旅する旅人は、遠い昔の、過酷な労働に耐えた塩鉱労働者たち、別荘で優雅な時を過ごした年老いた皇帝、ナチと戦った勇敢な山の住人たちなど、歴史上の人物たちの足跡を辿ることになります。しかし、なぜ映画俳優のジョージ・クルーニーが、これらに関係して来るのでしょうか?
ヘルムート・トゥーセックさんが、サンクト・ヴォルフガングにある彼の店「ザルツカマー」の店内を案内しながら塩の話をする時、それを聞いているお客さんは、飾りのついた小さな引き出しの中に入っている、ブレンドされた塩のサンプルをすぐにでも味見してみたいという衝動に駆られます。トゥーセックさんは、ザルツカンマーグートで産出した光輝く岩塩の原石を掲げながら、「天然の塩は、ただのナトリウムと塩化物でできている訳ではありません...」と語り始めます。「アウスゼー湖で産出したこのベルクケルンの塩には、少なくとも84種類ものミネラルが含くまれています。これらの成分はすべて、我々の体にも含まれているものです。だから、この塩には、私たちの体を優しく鎮める作用があるのです」。一般に市販されている普通の精製塩とは違い、この透明感のある、赤味がかった金色の塩には、私たちの血圧や血流にマイナスになる作用がありません。また、多くのミネラルを含んでいるため、味わいも豊かで美味しいわけです。
人は味を試してみるだけではなく、どんな所で採れるのか見てみたくなるものです。さて、その塩を産出する場所は、ヨーロッパの中でも目を見張るような、最も壮大な景色が堪能できる地域の一つに位置しています。物語で名高い白馬亭からほど近い、トゥーセックさんが「白い金」を売っているお店のある、静かなサンクト・ヴォルフガングの町を出発して、いくつかの丘陵と峠を越えると、人々がすでに何千年も前から塩を採掘し、ヨーロッパ中に流通させていた町ハルシュタットに行き着きます。この旅の途中では、次から次へと現れ旅人の目を楽しませてくれるロマンチックな湖沼群や、息を飲む美しい風景など、ザルツカンマーグートの魅力に直接触れることができます。この決して尽きることのない魅力の源は、穏やかな表情の田園風景と近寄りがたいような険しい山岳地帯といった、優しい風景と荒々しい絶景とのコントラストでしょう。永い歴史を持つこのザルツブルク州の中にあって、特に人々によく知られた、標高3000mの山の谷間に抱かれ、深い藍色の水を湛える湖の畔に佇む美しい町ハルシュタットには世界最古の岩塩鉱があり、世界中から訪れる人々が絶えません。岩塩鉱山の渓谷には、七千年も続く文化の歴史が今なお脈々と息づいています。
ハルシュタットは、今日でも塩を産出しています。しかし、現在この岩塩鉱を訪れるほとんどの人たちの目的は、楽しみとアドベンチャーです。その中でも、一番人気のアトラクションが塩鉱のトンネル内にある、かつては工夫たちが下の階層へ素早く降りるために使っていた2台の滑り台を、見学者が滑り下りるスリル満点のアトラクションです。ここでは滑走者のタイムを秒単位で計測し、その滑る姿を写真に撮ってくれるサービスがとても人気です。見学者は坑内を見学しながら、塩がなぜ山で採れるのか、どのような方法で採掘されるのかなど、岩塩鉱の事が楽しく学べるように工夫されています。約2億4千万年前、超大陸パンゲアが分裂した時に、ザルツカンマーグートの土地は荒れた沿岸に横たわりました。そして、何百万年もの間、干上がった塩の海は火山の噴火や、山の形成や岩盤の変動によって移動し、隆起し、圧縮され、石灰層で覆われました。そこで新しく生まれた山々の内部で、塩は人間に発見されるまで、数千年の間眠り続けていたのです。
そんな古い時代にも、塩はバード・イッシュルから、トラウン川とドナウ川を経由して、遠くハンガリーやボヘミア、スロベニアの地へと運ばれていたのです。今日、バード・イッシュルは温暖な気候の健康リゾート地として、また、帝国時代のノスタルジーに浸りたい人々のメッカとして、広くその名を知られています。ここはまた、ある意味で皇帝フランツ・ヨーゼフI世にとっての第二の故郷でした。彼の86年間の人生において、実に82回もの夏をこの地の別荘で過ごしたのです。また、バード・イッシュルは、オーストリア最古の塩水温泉です。現在はとてもモダンな設備が整ったウェルネス・スパ・リゾートとして有名で、その塩水泉は呼吸器官、筋骨格系や心臓血管系の健康に効果があると言われています。
この小さな町を流れるトラウン川とイッシュル川の合流点を出発した旅人は、ペッツェン峠を越えてアウスゼーアーランドという地域を辿り、やがてアルトアウスゼーというこの地域で最も遠い場所にある、静かな村に到達します。この地域で最も岩塩が豊かなサンドリング山が、この村を見下ろしています。ここでの塩鉱ツアーでは、700mも山の内部に入り、深さ350メートルの地層で塩の層に達すると、紫色にキラキラと輝く塩の結晶を見学することができます。
今日でもこの岩塩鉱が、昔の姿のままで現存しているのは、それほど遠くない時代に、数人の勇敢な工夫達がこの鉱山を守ってくれたおかげなのです。1944年に、ナチス軍がヨーロッパ中から略奪した3万点以上の美術品をここに隠しました。その時ここは、あらゆる時代を通して、最も貴重な美術品収蔵庫だったのです。戦争の終結の時を迎え、ナチス軍は坑道を爆破してこれら人類の至宝を破壊しようとしました。しかし、アルトアウゼーの工夫達がその企てを阻んだのです。レジスタンス活動中の1945年5月、工夫達は自分たち自身と共に、塩鉱の将来を守るために、4つの500キロ航空機爆弾を坑内から秘密裏に運び出し信管を外したのです。その数日後、アメリカ軍がここに進軍し、何十億ドルもの価値がある美術品を無事に保護したのです。
この史実は、歴史の中の小さな物語かも知れませんが、この小さな村の英雄たちの武勇伝にハリウッドの映画界が注目しても少しも不思議ではありません...。実は、あのハリウッド・スター、ジョージ・クルーニーがこの歴史的なストーリーを題材にし、「The Monuments Men(邦題:ミケランジェロ・プロジェクト)」という映画を製作し、自らが主演し、世界の注目を集めました。