多様性に富んだドナウ川流域

海に注ぐまでに、これほど多くの国々を貫流する河川は、世界でもドナウの他にありません。そのためドナウ川は、今までに無数の歌で賛美され、また、数知れぬ多くの人々がそこを旅してきました。

ヨーロッパで二番目に長い河、ドナウ川が西から東へと流れる間に、ドイツ、オーストリア、スロバキア、ハンガリー、クロアチア、セルビア、ルーマニア、ブルガリア、モルドバ、ウクライナの10カ国などを通り、ヨーロッパのライフラインとして、多種多様の人々・宗教・文化を調和のとれた形で結合しています。多様性に富み、ある時はのどかな、ある時は神秘的な表情を見せる岸辺の風景は、神話と伝説に彩られています。

中央ヨーロッパの歴史全体がドナウの岸辺で書かれたと言っても過言ではなく、何世紀も続けられてきた人々と文化の交流の足跡を、今日でもはっきりと見ることができます。強大な城、立派な修道院、壮大な宮殿など、ドナウの畔には数多くの歴史の証が並んでいます。

この河の流域の人々の足跡に触れるほかにも、長い歴史の中で第16代ローマ皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌスや、神聖ローマ帝国のバルバロッサ=赤ひげ王とも呼ばれていたフリードリッヒI世からハプスブルク家に至るまで、ヨーロッパの伝説的な支配者たちが遺していった文化遺産を詳細に見ていくのも非常に興味深い体験です。国際的な観光協会や船会社の協力のおかげで、旅行者は中世の街レーゲンスブルクから出航して、パッサウとウィーンを経由して、ハンガリーの首都ブダペストへと至る「皇帝と王たちの道」と呼ばれる歴史的なのルートを旅する魅惑的な船旅が楽しめます。

手つかずの自然が広がる美しいドナウの湿地帯のような風景や、目を見張る美しさを見せるのどかなワッハウ渓谷などの景色や風物が堪能できる一方で、途中下船して数々の古い町やモダンな街を訪れる貴重な経験は、この旅を一際忘れがたい一生の思い出にしてくれることでしょう。

ドナウの絶景、シュレーゲン・ループをハイキングする

ヨハン・シュトラウスによって作曲された「美しく青きドナウ」は、隠れたオーストリア国歌となりました。この曲の根源にあるのがドナウ川です。この川を見て回る一番いい方法は、船旅に出るか、すばらしい眺望が得られる「シュレーゲン展望台」に上ることです。

多様で革新的な文化を見せるリンツ

ドナウ河畔にあるオーバーエステライヒ州の首都リンツは、様々な文化や芸術分野、メディアが互いに結びつくと、いかに素晴らしいものが生まれるかを如実に示しています。アルス・エレクトロニカ・フェスティバル、市立芸術デザイン大学やレントス美術館の最新鋭の展覧会など、アート・ファンにとって、まさにリンツは絶対に見逃せない街です。また、この街は食文化においても多様性に富み、南ドイツ料理、チョコ共和国の南部の料理、オーストリアのモストフィアテル地方やワルトフィアテル地方の料理の他、リンツの歴史的なレシピなど、グルメを唸らせる美味しい料理が盛りだくさんです。

リンツを語る上で、忘れてはならないものが、アントン・ブルックナーの不朽の名作から、画期的な電子音楽ジャンルでの革新など、世界的な音楽分野への卓越した貢献です。また、リンツの音楽の最新のハイライトは、ヨーロッパで最もモダンなオペラハウス、リンツ・ミュージックシアターです。このような劇場を建てる場所として、何世紀もの間、中央ヨーロッパの芸術と文化の発展に大きく影響を与えてきた最も重要な河の畔にあるリンツの街こそ最も相応しい所です。

世界遺産 ワッハウ渓谷

渓谷の斜面に広がるブドウ園、中世の面影を残す古都や小村、ドナウの流れなど、全てが一体となって類い希な景観を生み出しています。
ドナウ川がもたらす温暖な気候、日照時間に恵まれた南斜面、太古から保存された独特の土壌などによって、ワァッハウ渓谷では最高品質の白ワインが生産され、世界中のワイン専門家から高く評価されています。
さらに、メルクからクレムスまで33キロに及ぶドナウ河岸には、数多くの歴史的建築が残されています。渓谷全域には数多くのレストランやガーデンレストランがオープン、郷土色豊かで最高レベルの味覚を提供しています。そこには、ワァッハウ渓谷独特の食材とクリエーティブなレシピが融合しています。

4分の3拍子のリズムで流れる川

ドナウ川から着想を得たと感じる芸術家がたくさんいると聞いて、あなたは驚きますか?河川は数え切れないほどの絵画や詩のテーマになっていますし、さらに多くの民話はドナウについて語っています。たぶん、その数はドナウ川のカーブの数より多いかも知れません。19世紀初頭、エミール・ヤコブ・シンドラーやロベルト・ルスのように、多くの画家たちが絵の具やイーゼルを旅の荷物に詰め込み、ワッハウの牧草地に向かいました。エゴン・シーレはトュルンで、オスカー・ココシュカはドナウ川南岸のペヒラルンで育ちました。

ヨーゼフ・ハイドンとイグナツ・ヨーゼフ・プライエルはドナウ川の魅力に魅せられ、ヨハン・シュトラウスは4分の3拍子の賛歌を作曲しました。その曲『美しく青きドナウ』は、すべてのワルツの楽曲の中でたぶん最も有名なものでしょう。また、世界中で知られる名曲で、オーストリアでは隠れた国歌と呼ばれ、オーストリア全土で流れる年の初めを伝えるメロディでもあります。『美しく青きドナウ』は宇宙にさえ行っています。この曲がスタンリー・キューブリック監督の名作SF映画「2001年宇宙の旅」のサウンドトラックとして使われたのはご存知の通りです

ドナウ・アウエン国立公園

中部ヨーロッパ最大の河の流域から成るこの公園は、約5000種にもおよぶ動物にとって理想の生息地となっています。ドナウ・アウエン地帯は、種の滅亡に おびやかされている動植物にとって理想の逃げ場であると同時に、人間にとっても素晴らしい憩いの場所です。ガイド付きのハイキングや、ボートによる周遊を 通じて、他に例のない自然のたたずまいを知ることができます。

カルヌントゥムCarnuntum

ドナウ川地域では、過去と現在が微妙な形で融合しています。これもまた、オーストリアのドナウ川沿岸地方の魅力的な側面です。今この場から遠く過ぎ去った時代までタイムトラベルするのに、数分とはかかりまりません。古代ローマ人は、マウテルンにある入植地ファヴィアニスFavianis、あるいは、古代ローマの都市カルヌントゥムCarnuntumに遺跡を残しています。かつて強大だったデュルンシュタイン城は、現在でも見る者に強い印象を与える廃墟です。その昔、イングランドのリチャード獅子心王が、この城壁の向こうで捕らわれの身であったことは、容易に想像することができます。

ベネディクト派のメルク修道院は、その姿を見た人を即座に魅了します。ユネスコ文化遺産になっているこの修道院は、オーストリアで最も美しいバロック建築と言っても過言ではないでしょう。オーストリアを旅すれば、遅かれ早かれ「シシィ」と愛情を込めて今でも呼ばれている皇妃エリザベートの物語と出会い、彼女が皇帝フランツ・ヨーゼフI世と結婚するために、蒸気船に乗ってリンツまで旅したことを知ることになるでしょう。それは、ドナウの歴史の中で最も輝かしい時代です。二人の結婚がハプスブルク・ハンガリー二重帝国の2つの大都市ウィーンとブダペストを結び付け、ドナウ君主国の別名を得た栄えある時代でした。

ウィーンのドナウ流域

ドナウ地域とその多彩な風景は、今でもオーストリア人の心の拠り所です。全体から見ると国土の約15%に過ぎませんが、全人口8百万人の内の半分以上の人々が、この地域に住んでいます。首都のウィーンを包括するドナウ地域は、オーストリア経済の原動力でもあります。

ドナウ川はいつの時代も憧れの場所でした。19世紀半ば、ウィーンの人々はドナウの漁師の船を借りて、ドナウ川の支流を探索しました。直にドナウ川は夏の人気のデスティネーションとなり、今もそれは変わりません。ここで休暇を過ごす人たちは、電動自転車でドナウのサイクリングコースを走り、ブドウ畑を行くハイキングコースや、かつて皇帝や王様も歩んだルートを歩きます。時には、周辺に多数あるスパに入ったり、岸辺のビーチでリラックスしたりもできます。 

川辺で楽しく一日を過ごした後は、ドナウ川を望むホイリゲ(ワイン居酒屋)の中庭に席をとり、ワッハウ産のワインを片手に、地元の農家で作った焼き立てのパンとチーズやハムを味わっていると、ゆっくりと時が過ぎてゆくのを感じます。川面を滑るように進む船が通り過ぎて行くと、やがて船の引き波が優しく岸辺を洗います。最初の波は少し大きく、二番目、三番目と徐々に穏やかに波が消え去る様を眺めていると、そのリズムに合わせるように心が和んできます。水辺で戯れる波の音に耳を澄ませば、やがてそれが4分の3拍子(ワルツ)のリズムを刻んでいるような気がしてくるから不思議です。

ヨーロッパ一の観光ブドウ園、ドメーヌ・ワッハウ

世界遺産ワッハウ渓谷のデュルンシュタインにあるワイナリー「ドメーヌ・ワッハウ」は、2020年ワールド・ベスト・ワィンヤード賞の第3位に輝きました。世界で3位であり、そしてヨーロッパでは第1位です。この世界で最も優れたブドウ園の選出には、ワインの品質に加えて、ワイナリーの全体的なパフォーマンスが評価されます。

ドメーヌ・ワッハウはワインの生産地ワッハウ地域のワイン生産量の約1/3を占めているこの地域では大きなワイナリーです。ドメーヌ・ワッハウの高評価の大きな要因は、世界遺産となっているドナウ川の景観を形成する美しいブドウ園の景観を担っていること、またイベントにも利用できるバロック様式の城館を持つワイナリーであること、オーストリアを代表する白ワインのグリューナー・フェルトリーナーが生産量の70%を占めていることです。

ワイナリーツアーには、ドナウ川を望む傾斜地に造られたブドウ畑、数百年物の樽が並ぶ蔵、18世紀初期に建てられたバロック様式のワイン城館などの見学が含まれ、ワッハウ渓谷におけるワイン醸造の概要を学ぶことができます。ツアー最大の楽しみである試飲では、各種ワインとともに、口直し用としてワッハウ名物の白パン「ワッハウアー・ラベール(Wachauer Laberl)」が供されます。

併設のショップには自家製ワインはもちろんのこと、ワッハウ名産のアンズのジャムやお酢やリキュール、グリューナー・フェルトリーナーのブランデー入りチョコレート、菓子など数多くの商品が並び、お土産物の購入場所としても絶好です。

ワッハウ渓谷 世界遺産 ドナウ川の真珠

ドナウ川の自然史と文化史が融合するなかで形成されたワァッハウ渓谷は、温暖な気候に恵まれ、最高の白ワインを生み出します。その文化的景観がユネスコ世界遺産に登録されており、四季を通じて訪れる人々を魅了し続けています。

ワッハウ渓谷ドナウ川クルーズ

メルクからクレムスにいたる30数キロの一帯はワッハウ渓谷と呼ばれ、ドナウ川クルーズの中で最も風光明媚な場所として知られており、ユネスコ世界文化遺産に指定されています。ウィーンから定期観光バスのほか、鉄道を利用して日帰りもできます。

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